最近、AIの進化がすごい。
文章を書いてもらう。
画像を作ってもらう。
分からないことを質問する。
プログラムまで作ってもらう。
少し前なら「そんなことまでできるの?」と思っていたことが、今では普通にできるようになっています。
でも、ふと思いました。
AIって、なんで急にこんなに進化したんだろう?
私は2000年代前半からインターネットを使っています。
当時のインターネットは、今と比べればできることもずっと少なく、通信速度も遅い時代でした。
それでも、初めて触れるネットの世界は十分に衝撃的でした。
特に覚えているのが、チャットのような画面に質問を入力すると、それに対する回答候補が表示されるようなサービスです。
今考えれば、現在の生成AIとはまったく別物です。
それでも当時は、
「パソコンに質問したら答えが返ってきた!」
というだけで、かなり未来を感じた記憶があります。
それから約20年。
今ではAIに、
「この記事の構成を考えて」
「こんなイメージの画像を作って」
「この作業を自動化するプログラムを作って」
と頼めば、本当にそれらしいものを作ってくれます。
しかも、一問一答ではありません。
「いや、そうじゃなくて……」と伝えれば修正してくれるし、前の話を踏まえて会話を続けることもできます。
2000年代前半のインターネットを知っている身としては、この変化にはちょっと異常なものを感じます。
20年かけて少しずつ進化したというより、ここ数年で突然何段階も進んだように見える。
なぜなのでしょうか。
そこで今回は、
「AIは、なぜ急にこんなに進化したのか?」
を調べてみることにしました。
調べていくと、最初に思っていたのとは少し違う答えが見えてきました。
そもそも、本当にAIは「急に」進化したのか?
まず気になったのがここです。
私たちがAIを身近に感じるようになったのは、かなり最近です。
特に大きかったのがChatGPTでしょう。
ChatGPTが一般公開されたのは2022年11月30日です。
そこから生成AIというものが、一気に一般にも知られるようになりました。
では、AIそのものも2020年代になって突然登場したのでしょうか。
調べてみると――
全然そんなことはありませんでした。
「Artificial Intelligence(人工知能)」という言葉が生まれたのは1950年代までさかのぼります。
この名前を考えたのが、アメリカの計算機科学者ジョン・マッカーシーです。
マッカーシーらは1955年、翌年に開催する研究会の提案書で「Artificial Intelligence」という言葉を使用しました。
そして1956年、アメリカのダートマス大学で研究会が開催されます。
これは現在、AI研究の出発点の一つとして知られています。
1956年。
ChatGPTが登場する66年も前です。
つまりAIは、最近突然生まれた技術ではありません。
むしろ人類は半世紀以上も前から、
「コンピューターに、人間のような知的なことをさせられないか?」
と研究を続けていたわけです。
AIは昔から何度もブームになっていた
さらに調べてみると、AIには現在まで何度か「ブーム」がありました。
1950~60年代:第1次AIブーム
初期のAIは、簡単なパズルを解いたり、決められたルールの中で推論したりすることができました。
「このまま進歩すれば、人間のように考えるコンピューターができるのでは?」
と期待が高まります。
ところが現実世界の問題は、研究室で扱う問題よりはるかに複雑でした。
コンピューターの性能も今とは比べものになりません。
期待されたほどの成果を出せず、AI研究への期待は次第にしぼんでいきます。
これが後に「AIの冬」と呼ばれる停滞期につながります。
1980年代:第2次AIブーム
次に注目されたのが「エキスパートシステム」でした。
簡単にいえば、
「専門家が持っている知識や判断ルールをコンピューターに大量に登録して、専門家のように判断させよう」
というものです。
例えば、
「この症状とこの症状があるなら、この病気の可能性がある」
というような専門知識を大量に登録していきます。
ところが、ここにも問題がありました。
人間が持つ膨大な知識を、すべてルールとして登録して維持するのは大変です。
想定していない状況への対応も苦手でした。
再びAIへの期待は下がっていきます。
2010年代:第3次AIブーム
そして2010年代。
ここで大きく注目されるようになったのが、機械学習やディープラーニングです。
これまでとは少し考え方が違います。
人間がすべてのルールを教えるのではなく、
「大量のデータを見せて、コンピューター自身にパターンを学習させよう」
という方法が大きく発展しました。
ここから、現在のAIにつながる急速な進歩が始まります。
そもそも「機械学習」と「ディープラーニング」って何?
ここでいきなり、
「機械学習」
「ディープラーニング」
と言われても、よく分かりません。
なので、猫の写真を見分けるAIを作ると考えてみます。
昔ながらの方法なら、人間が、
「耳はこんな形」
「ヒゲがある」
「目はこんな形」
といったルールを考えて、コンピューターに教えます。
しかし猫にもいろいろいます。
黒猫もいれば白猫もいる。
横を向いている猫もいれば、耳が隠れている猫もいる。
人間がすべてのパターンをルールとして書くのは大変です。
そこで、
大量の「猫の写真」と「猫ではない写真」をコンピューターに見せて、猫を見分けるためのパターンを学習させる。
これが、機械学習のイメージです。
では、ディープラーニングとは何でしょう。
ディープラーニング(深層学習)は機械学習の一種です。
人間の脳にある神経回路の仕組みを参考にした「ニューラルネットワーク」を何層にも重ねることで、より複雑な特徴を学習できるようにしたものです。
ざっくり関係を書くと、
AI(人工知能)
└ 機械学習
└ ディープラーニング
という関係です。
AIという大きな考え方の中に機械学習があり、その機械学習の方法の一つとしてディープラーニングがあります。

AIの歴史を並べてみると「突然」ではなかった
ここまでを簡単な年表にしてみます。
1950~60年代
第1次AIブーム
↓
1970年代ごろ
期待ほど成果が出ず、AIの冬へ
↓
1980年代
第2次AIブーム
エキスパートシステムが注目される
↓
再び停滞
↓
2010年代
第3次AIブーム
機械学習・ディープラーニングが大きく発展
↓
2017年
Transformer登場
↓
2022年
ChatGPT一般公開
↓
現在
文章・画像・音声・動画・プログラミングなどへ

こうして見ると、
「AIが突然現れた」
というイメージは間違っていそうです。
AI研究そのものは何十年も続いていました。
ではなぜ、最近になって急激に進歩したのでしょうか?
AIを急成長させた「4つの条件」
調べてみると、何か一つの大発明だけで現在のAIが誕生したわけではありませんでした。
いくつもの条件が、同じ時代に揃ってきたことが大きかったようです。
難しい話をできるだけ簡単にすると、大きく4つあります。
① AIの「頭の仕組み」が良くなった
まずはAIそのものの学習方法です。
機械学習、ディープラーニング、そして後ほど説明するTransformerなど、新しい技術が次々と登場しました。
単純にコンピューターそのものが速くなっただけではなく、
「どうやって学習させるか」
も進歩したわけです。
② AIが勉強できる「教材」が大量に増えた
AIを学習させるには、データが必要です。
そして現代には、膨大な量のデジタルデータがあります。
インターネット上には文章や画像など、大量の情報があります。
つまり昔と比べて、AIが学習するために利用できる「教材」を大規模に用意できる時代になったわけです。
③ AIが勉強する「コンピューター」が速くなった
どれだけ良い学習方法と大量の教材があっても、計算に何十年もかかっていたら使いものになりません。
そこで重要になったのが、コンピューターの計算能力の向上です。
特にAIでは、GPUと呼ばれる計算装置が重要な役割を果たしています。
GPUはもともと、ゲームなどの映像を高速に描画するために発達した装置です。
映像では、大量の似た計算を一度に処理する必要があります。
そして、この
「大量の計算を並行して処理するのが得意」
という特徴が、AIの学習とも非常に相性が良かったのです。
ゲームをきれいに表示するために発達した技術が、AIの進歩にも大きく役立った。
これはなかなか面白いところです。
④ AIにものすごい「お金」が使われるようになった
そしてもう一つ。
AI開発には、とんでもないお金が投入されるようになりました。
巨大なAIを学習させるには、大量の高性能な計算機が必要です。
電気も使います。
研究者やエンジニアも必要です。
AIが実際にビジネスになると分かると、世界中の企業が開発競争を始めます。
より高性能なAIを作る。
↓
利用者が増える。
↓
さらに投資する。
↓
もっと高性能なAIを作る。
という競争が起こります。
つまり現在のAIは、
頭の仕組み × 教材 × 計算能力 × お金
という4つの条件が同時に揃ったことで、一気に成長できる環境ができたわけです。

2017年、AIの勉強方法に大きな変化が起きた
そして現在の生成AIにつながる大きな出来事が起こります。
2017年です。
Googleの研究者らが「Attention Is All You Need」という論文を発表しました。
そこで提案されたのが、
Transformer(トランスフォーマー)
という仕組みです。
名前だけ聞くと、とんでもなく難しそうです。
実際、細かい仕組みを理解しようとするとかなり難しいので、ここでは大まかなイメージだけにします。
例えば、
「太郎は公園でボールを投げた。それを次郎が拾った。」
という文章があったとします。
「それ」が何を指しているのか理解するには、前に出てきた「ボール」との関係を見る必要があります。
文章を理解するには、単語を一つずつ見るだけではなく、
「どの言葉と、どの言葉の関係が重要なのか?」
を見る必要があるわけです。
Transformerでは、こうした文章中の要素同士の関係に注目する「Attention(注意機構)」という考え方が重要な役割を果たします。
さらにTransformerには、大規模な計算を並列化しやすいという大きな利点がありました。
これが、
大量の教材 × 高性能な計算機
という先ほどの条件と非常に相性が良かったのです。
そしてTransformerは、その後の大規模言語モデル(LLM)の基礎となっていきます。
ちなみに**大規模言語モデル(LLM)**とは、大量の文章などを学習し、文章を理解・生成するための巨大なAIモデル、と考えればひとまず十分です。
ChatGPTも、このLLMを利用したサービスです。
それでも、なぜ私たちは「2022年ごろ突然すごくなった」と感じたのか?
ここまで調べて、一つ疑問が残りました。
AIは1950年代から研究されている。
ディープラーニングも2010年代には大きく発展している。
Transformerも2017年には登場している。
だったら、
なぜ普通の人が「AIすごい!」と感じ始めたのは、こんなに最近なのでしょうか?
ここで大きかったのが、やはりChatGPTでした。
2022年11月30日、ChatGPTが一般公開されます。
それまでにも高性能なAIは存在していました。
でも普通の人からすると、
「どうやって使うの?」
という壁がありました。
ところがChatGPTは違いました。
画面を開く。
↓
普通の言葉で質問する。
↓
AIが普通の言葉で答える。
基本的にはこれだけです。
プログラミングの知識も必要ありません。
AI研究者である必要もありません。
専門的な命令文を覚えなくても、とりあえず話しかければ使えます。
ここで初めて、多くの人が、
「今のAIって、こんなことになってるの!?」
と直接体験できるようになったのではないでしょうか。
「AIの進化」と「AIの普及」が同時に起きた
ここが今回調べていて、一番「なるほど」と思ったところです。
私が最初に感じていた、
「AIって、ここ数年で突然進化してない?」
という疑問。
これは完全な間違いではありません。
実際、AIの性能は近年ものすごい勢いで向上しています。
ただし、それだけではありませんでした。
私たちが感じていた「急激な進化」には、
AIそのものが急速に高性能化した
ことに加えて、
普通の人でも、その高性能なAIを簡単に使えるようになった
ことが重なっています。
つまり、
進化 + 普及
が同時に起きた。
だから体感としては、
「突然、ものすごいAIが現れた」
ように感じたわけです。
昔の「質問に答えるチャット」とChatGPTは何が違う?
ここで、冒頭で触れた2000年代前半のチャットを思い出しました。
当時私が「すごい!」と思ったものは、質問を入力すると、それに対応する回答候補を返してくれるようなものでした。
仕組みはサービスによって違いますが、昔のチャットボットには、
「この言葉が入力されたら、この回答を返す」
といった、人間があらかじめ用意したルールや回答を使うタイプが多くありました。
だから、想定していない質問にはうまく答えられません。
現在の生成AIは、それとは根本的に違います。
大量の文章から言葉のパターンや関係を学習し、入力された内容に応じてその場で文章を生成します。
だから、
「もっと簡単に説明して」
「小学生向けにして」
「さっきの説明と比べて」
といった要求にも対応できます。
私が昔、
「パソコンが質問に答えた!」
と驚いていたものと、
現在、
「AIと普通に相談して、一緒に何かを作る」
という体験。
見た目は同じ「チャット」でも、中身はまったく別物になっていたわけです。

じゃあ、AIはこのまま同じ勢いで進化し続ける?
ここまで来ると、次に気になるのがこれです。
「じゃあ、このままAIはどこまで進化するの?」
これは、現時点では誰にも正確には分かりません。
AIの性能が現在も急速に向上しているのは事実です。
一方で、現在のAIにも苦手なことがあります。
もっともらしい間違いを答えることもあります。
複雑な問題では推論を間違えることもあります。
人間のように本当に物事を「理解」しているのか、という議論もあります。
つまり、
「AIはもう何でもできる」
という段階ではありません。
これまでのAIの歴史を見ても、
ブーム → 大きな期待 → 限界が見つかる
ということを何度も繰り返しています。
現在の生成AIが、このまま同じ勢いで進化するのか。
どこかで大きな壁にぶつかるのか。
あるいは、また別の技術によって壁を突破するのか。
これは数年後にこの記事を読み返したとき、答え合わせができるかもしれません。
【検証結果】AIは「突然」進化したわけではなかった
最初の疑問に戻ります。
「なぜAIは急にこんなに進化したの?」
調べる前の私のイメージは、
「ここ数年で何かすごい技術が発明されて、AIが突然賢くなった」
というものでした。
でも、実際にはもっと長い話でした。
検証結果
「AIはここ数年で突然生まれた」
→ ×
AI研究の歴史は1950年代までさかのぼります。
「最近になってAIの進歩が大きく加速した」
→ ○
機械学習・ディープラーニング・Transformerなどの技術、大量のデータ、高性能な計算機、巨額の投資など、複数の条件が揃いました。
「私たちが急にAIの進化を実感するようになった」
→ ◎
ChatGPTなどの登場によって、専門家だけの技術だった高性能AIを、普通の人が普通の言葉で使えるようになりました。
つまり今回の答えは、
AIは突然天才になったわけではない。
何十年にもわたる研究の上に、
「技術」「データ」「計算能力」「投資」
という条件が揃って、近年になって一気に花開いた。
さらにChatGPTなどによって、その進化を私たち自身が直接触れるようになった。
だから、
「AIが突然ものすごく進化した」
ように感じた。
ということのようです。
2000年代前半、パソコンから回答が返ってくるだけで未来を感じていた自分が、今ではAIと相談しながらこの記事そのものを作っています。
そう考えると、なかなか不思議なものです。
そして数年後。
今のAIを見て、
「2026年のAIなんて、まだあんなものだったよね」
と言っているのでしょうか。
それとも、どこかで進化の壁にぶつかっているのでしょうか。
これは今のところ、まだ分かりません。
数年後にもう一度、検証してみたいと思います。
参考資料
文部科学省「令和6年版 科学技術・イノベーション白書 第1章 新時代を迎えたAI」
Vaswani et al.「Attention Is All You Need」(2017)


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